introduction

鼓動と足音だけが響く地下道で、男の手は汗ばんでいた。錆びたバールはコインロッカーを破壊し、
叛逆の火蓋が切られる。逃げない自分に出会うために、もしかしたら出会えるかもしれない違う 未来のために-。

『狂い咲きサンダーロード』(80年)、『爆裂都市 BURST CITY』(82年)などで世界を震撼させた"邦画界の革命児"石井岳龍監督(=石井聰亙)が、遂にロック映画の舞台に帰って来た。『生きてるものはいないのか』(12年)『シャニダールの花』(13年)などの不条理なオルタナ世界の探求から一転、無類の音像を構築し続けケタ外れの独創性を発揮するバンドbloodthirsty butchers(ブラッドサースティ・ブッチャーズ)のリーダー、故・吉村秀樹からの熱烈なラブコールのもと完成させた叛逆の青春物語、それが本作『ソレダケ / that's it』である。 もともとニューアルバムのリリースにあたり、映画とのコラボレーション企画を試行していたブッチャーズ。吉村秀樹は石井岳龍監督に打診、発表前の新譜楽曲を中心としたブッチャーズのライヴ映像を軸に、別のドラマが徐々にシンクロしていくというオリジナルストーリーで、映画とロックが異次元で融合する未知なる化学反応に大きな期待を寄せていた。しかしながら2013年8月にクランクインを控えた同年5月27日、吉村秀樹が急逝、ライヴ撮影が不可能となったため映画企画はゼロに戻され、ブッチャーズはそのアルバム「youth(青春)」を同年11月14日に単独リリース、アルバムに封入された石井岳龍監督のライナーノーツにてこの計画にまつわる事実が記された。しかし、その後吉村秀樹の存在とブッチャーズの音楽から着想を得た石井岳龍監督はその遺志を受け継ぎ、まったく新たな一つの物語に取り組んだ。ブッチャーズの持つ激しさ=他者を攻撃するような表層的な激しさではない「攻撃的な諦念/無常」から導き出される、人間の意地が爆発する物語。全篇にブッチャーズの音を配置、主演に若き日本映画界の扇動者染谷将太、本格女優としての確実な一歩を踏み出した元E-girls/Flowerの水野絵梨奈、映画とロックのアウトサイダー渋川清彦、インディペンデント映画の番人村上淳という屈指の個性派俳優たち、そして敵役にはして様々な役柄で世を魅了する綾野剛を迎え、濃くて、危なくて、激しい、情熱とアクションが交差する青春ドラマが完成した。四半世紀以上の活動歴とともに常に未来の創造に向けて日本のロックの殻を破って来たブッチャーズと、久々の本格的ロック映画への挑戦を果たした石井岳龍監督。ともにそれぞれ<ロックと映画>の最前線を生き抜いてきた両者の融合は、そのオールドスクールともいえる手法とともに<地下のロックと映画>がメインストリームに対するカウンターカルチャーとして機能していた時代を想起させ、懐古趣味とは異なる、現代邦画界には見られない映像世界となった。ブッチャーズの放つ「自己憐憫」の対極に位置する「どのような状況にあっても腐らない強い意志」を、石井岳龍監督が映画という手法で表現した本作。巷に溢れる単にロックという音楽の断片を盛り込んだ映画とはまったくもって趣を異にする、まさに「今、この瞬間」の新たなロック映画が誕生した。